JA系スーパー、鳥取県で「全店閉店」の衝撃 農業県で生き残ることができず…なぜ?

鳥取県東部のJA系スーパー「トスク」の全店舗が9月30日、閉店しました。 鳥取県では、相次いでJA系スーパーの閉店が決定し、県内からその姿を消すことになりました。事業引継ぎも難航していて、住民や取引業者の間で不安が広がっていますが、なぜ農業県のはずの鳥取県で生き残ることができなかったのでしょうか。 【写真を見る】JA系スーパー、鳥取県で「全店閉店」の衝撃 農業県で生き残ることができず…なぜ? 9月30日に閉店した「トスク」の店舗は、鳥取市の本店、吉成店、用瀬店のほか丹比店、ちづ店、若桜店、フレッシュライフいわみの7店舗です。 このうち本店では、別れを惜しむ多くの買い物客が訪れました。 買い物客 「家族で買い物によく来させてもらっていたので、思い出が蘇ってくる中での寂しさという気持ち」 午後6時。閉店の時を迎え、JA鳥取いなばの清水雄作組合長が感謝の言葉を述べました。 JA鳥取いなば 清水雄作 組合長 「多くの方にご利用ご愛顧いただいたこと、重ねてお礼申し上げたい」 55年の歴史に幕を閉じたトスク。 若桜店とちづ店はエスマートが引き継ぐことが決まっていますが、引き継ぎ先を探している用瀬店と丹比店は現在も複数の企業と交渉中だということです。 JA系スーパーを巡っては、経営悪化などを理由に、今年、JA鳥取いなば・JA鳥取中央・JA鳥取西部から相次いでスーパー閉店の発表がありました。 JA鳥取いなばのトスクはすでに全店閉店。 JA鳥取中央のAコープ赤崎店・せきがね店・下北条店はいずれも9月中に閉店していて、トピア店は2024年3月26日に閉店予定です。 JA鳥取西部のAコープよどえ店、大高店・みぞくち店・名和店の全4店舗は、2024年1月末に閉店予定です。 このうち、JA鳥取中央のAコープ赤崎店は、県中部でスーパーを展開する東宝企業が事業を引き継ぎ、10月6日に「東宝ストア赤崎店」としてオープン予定。Aコープトピア店についても東宝企業への引継ぎが予定されています。 なぜJA系スーパーは鳥取県で生き残ることができなかったのでしょうか。 専門家はいくつかの要因を分析します。

公立鳥取環境大学経営学部 竹内由佳 副学部長 「ドラッグストアや単身者だとコンビニエンスストアも毎日の食事を買う場所として選択肢に入ると思うんです。ライバルが増えたところで、地元スーパーとしてどこと戦うか決めづらい、色んな敵が生まれてしまったというところがあると思います」 こうした厳しい環境に加えて、そもそも農業従事者が減っているということも大きな要因と考えられるといいます。 農業従事者が減っているということは、年々JAが活動できる資金が減少しているということ。さらに、近年は飼料代や燃料代が高騰するなど、状況は厳しくなる一方です。 公立鳥取環境大学経営学部 竹内由佳副 学部長 「営農を考えたときに、関係がない所、できるだけ遠い所から手を引くことを考えると思います。となると、お金関係は置いておかなきゃとなるので金融系、JAバンクは置いておく。だから、どうしても小売りの方から整理していかざるを得ない状況なんだと思います」 JA系スーパーの閉店で「買い物難民」の発生が懸念されることに加え、商品を卸す地元業者にとっても死活問題です。 德田商店 德田豪 社長 「売り上げ減少が間違いなく起こります。また、売り上げが減少したことによって、労働者の働く環境が変わってくることも懸念されています」 鳥取市にある食品卸売会社「德田商店」。 トスクやAコープとは約50年の付き合いがあり、年間の取引額は数億円にのぼります。そのため、事業の引き継ぎがされない場合は、その売り上げがそのままなくなることになるのです。 德田商店 德田豪 社長 「赤字企業を引き継ぐので、なかなか承継される方も厳しいだろうなと思います。ただ、今はガソリン代、光熱費等も上がっていて、我々物流業界もかなり厳しい状況にあるなかで、スーパーがなくなることでより一層何かしらの対策が必要になると、納入業者同士では話をしています」 また、仮に事業の引き継ぎがされたとしても、必ずしも売り上げをキープできるとは限りません。

德田商店 德田豪 社長 「地元のスーパーが引き継がれると、地元での物流が大切にされることも考えられますが、全国区のスーパーが来られると…。生鮮食品の一部は残るかもしれませんが、スーパーの売り上げの大きな部分を占めるNB商品などに関していうと、やはり流通先が変わってしまうということで、地方は縮小せざるを得ないということが考えられます」 納入業者らは、引き続き新たな販路開拓などへの支援を県や市などに求めていきたいということです。 では、なぜ引き継ぎ先が見つからないのでしょうか。経営学の視点から考えられる理由とは… 公立鳥取環境大学経営学部 竹内由佳 副学部長 「人が来る範囲、ここに住んでいる人は何人いるか目で見て分かってしまう所で、経営はしづらい。やっぱり、企業も利益というか、自分たちが食べていく分、お客さんにサービスしていくお金を稼がなくてはいけないとなると、引いてしまう部分はあるのかなと思います」 専門家が指摘したのは、来店が見込める客が住んでいる範囲「商圏」の狭さと人口減少問題です。こうした、企業努力ではどうにもできない問題が、店舗引き継ぎのハードルを上げてしまうのだといいます。 公立鳥取環境大学経営学部 竹内由佳 副学部長 「事業引き継ぎとなったら基本的に社会貢献に近くなっちゃうので。それでもやる、もしくはマイナスが出ない程度に頑張るということになると思います」 そのほかにも、店舗の老朽化による改装コストや建て替えコストが大きいことなども考えられるということです。 JA系スーパーの閉店は、地域に大きな課題を残しています。